講談社C-stationチーフエディターの前田です。
いつもメールマガジンをお読みいただきまして、ありがとうございます。
メルマガ限定コンテンツ初回のテーマは「マンガを活用したプロモーション その醍醐味と成功のカギ」です。
マンガやキャラクターを起用したマーケティングについて長年研究を続け、C-stationでも連載中のデジタルハリウッド大学院客員教授の野澤智行さんから、限りなく実践的な「マンガ活用プロモーション成功のポイント」をお聞きしました。
──マンガを使ったプロモーションで、すべてに先立つのは「どのターゲット」に対して「どの作品」を起用するかだと思いますが、それについてどのようにお考えでしょうか。
野澤 プロモーションを行う主体はクライアントです。クライアントが自社商品のターゲットをどう捉え、その文脈に即した最適なマンガやキャラクターが何かを選定するところが第一歩となります。
その際に、好みや思い入れからアプローチするのではなく、その作品のデータをしっかり集めて分析することが重要です。「この作品を起用したい」と思っても、最終的に上層部が判断する際には必ずデータの裏付けが必要になるからです。
発行部数は認知度の指標になるでしょうし、SNSアカウントのフォロワー数は情報拡散力の指標になります。そして何より欠かせないのが、「その作品にどのような実像を持ったファンがいるのか」という情報です。
──その作品が掲載されているメディアや、作中のキャラクターは容易に調べられますが、マンガ作品のファン層を把握するのはなかなか難しいのではないでしょうか。
野澤 そうですね、ファンについては公式のデータはほとんどありませんから、クライアント側でデータを集める必要があります。と言っても、それほど難しく考える必要はありません。SNSでの反応はもちろん、今はネットを使って比較的簡単にユーザー調査ができる環境にありますし、自社サイトへの訪問者にGoogleフォームなどで簡単にアンケートを取ることもできます。
そのようにして、できるだけ幅広くユーザーのデータを収集し、自社ユーザーと作品のマッチングを見極めることが、プロモーション効果を最大化させる作品選定につながります。
──データを見ることで、わかってくるターゲットもありますか?
野澤 たとえば「東京卍リベンジャーズ」という人気作品があります。分類上はいわゆるヤンキーマンガで、若い男性がターゲットと思われがちです。
しかし、イケメンを起用した実写映画などの影響で、現在若い女性への人気が高まりつつあることを、SNS上のデータ(ツイートしているアカウントのユーザー像)などで感じています。こういった現象をデータからいち早くキャッチして、若い女性向けのプロモーションに「あえてヤンキーマンガを活用する」のもおもしろいと思います。
──ターゲットを設定する際に気をつけたいことについて、教えてください。
野澤 自分たちの商品を求めている人や好きな人をターゲットとするのは当然のことなのですが、そのうえで、「商品のファンたちの行動特性」をよく考えることが大切だと思いますね。
たとえば50代の男性層に懐かしのキャラクターを使ってプロモーションを行った場合に、思ったような反応が得られなかった例などがあります。
この層はSNSで発信したりすることが少ないので、コアなファンだけがひとりで密かに楽しむだけで終わってしまい、友だちや家族を巻き込むまでに至らなかったんですね。逆に、ネット上の反応は「欲しい!」「行きたい!」と大きい場合でも、そのターゲット層には商品の価格が高すぎて、売り上げには結びつかなかったりすることもあります。
KPIをどう設定するかにもよりますが、情報の拡散に重きを置くのなら、友だちや家族などまわりを巻き込むようなしくみにしたいところです。例をあげると、まず子供に好かれるキャラクターも併用してほしいと言わせ、そこからお父さん、お母さんを動かすような......。
──作品とターゲットのマッチングには、データとともにしっかりした考察が必要ということですね。
野澤 作品そのものへの深い理解と考察によって、自社のターゲットとの接点が見えてくる場合もあります。作品理解は、実際のプロモーションを企画する際のクリエイティブに不可欠になってきますが、それ以前に、「ターゲットと作品のマッチング」という最初のステップを達成してしまう場合もあるんです。
たとえば、「花王アタック」が「進撃の巨人」とパッケージコラボした事例です。ここでパッケージに登場したキャラクターのリヴァイは、作品のトップを飾る主役ではありません。しかし「クールな見かけによらずきれい好き」というキャラクター設定があり、さらに女性を中心に主役を凌駕するくらいの人気を誇ります。
クライアントサイドはここに注目し、「家事の中心となる女性」ターゲットに対して「家事姿のリヴァイ」という、人気キャラクターの意外性あるビジュアルをパッケージ上で展開しました。ターゲットとキャラクターのマッチングだけでなく、心を捉えるクリエイティブまで一貫して達成した、見事な事例だと思います。
花王アタックのコラボボトル
Ⓒ 諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会
──ファンを本気にさせるクリエイティブは、プロモーションになくてはならない要素ですね。
野澤 先ほどの事例だと、家事姿のリヴァイの生真面目な顔つきが絶妙ですよね。これが笑顔だったら、きっとダメだったでしょう(笑)。
濃いファンは、「このキャラクターはこんなことはしない」「こんなことは言わない」という厳しい目を持っていますから、よく作品を理解せずクリエイティブに反映させるとソッポを向かれてしまいます。その一方で、ミスマッチであっても「もしこのキャラクターがこんなことをしたらおもしろい」という感性も持っています。このあたりのさじ加減は、作品への深い理解を持ったクリエイティブ陣の腕の見せ所ですね。
前編は、ここまでです。
後編では、クリエイティブやタッチポイントの作り方など、より実践的なプロモーションの設計について伺います。お楽しみに!